八重子十種
十三夜
樋口一葉(1872~1869)が明治27年12月「文藝倶楽部」に掲載した小説を久保田万太郎が昭和22年に劇化脚色(昭和4年放送台本に脚色している)同年9月三越劇場にて“新生新派”文芸公演で初演。花柳章太郎、柳永二郎、大矢市次郎、瀬戸英一等によって上演された。この劇の好脚色は1幕3場の小場面ながら情緒深い名作である。
八重子初演=昭和30年12月新橋演舞場
あらすじ
おせきは望まれて官吏の嫁になったが、子供が生まれたとたんに冷たくなった夫の仕打ちに耐えかね、ある十三夜、離縁を決意し幼子を置いて婚家先を出てきた。事を分けたる実家の父はおせきをさとし、おせきもまた置いてきた子供の行く末を案じて婚家へ帰ることを決める。翻意しての帰路、おせきの乗った人力車の車夫は幼馴染の高坂録之助であった。共に口にこそ出さなかったが淡い恋心を秘めていた間柄であり、おせきが嫁入りした後、放蕩して無気力となっていた録之助である。まったく別の人生を歩みだして添い遂げられなかった二人は万感交々、胸に哀感を秘めて月光が明るく照らす十三夜の夜道を歩き出すのであった。