八重子十種
花の生涯
船橋聖一(1904~1976)が昭和27年より28年にかけて毎日新聞に連載した名作であり、舞台・テレビ・映画に取り上げられた作品である。昭和28年10月演舞場で市川猿翁の井伊直弼、市川中車(ちゅうしゃ)の主膳に初代水谷八重子のたか女で初演された。その後、柳永二郎の直弼、森雅之の主馬(=主膳)でも再演され、48年3月松本幸四郎と水谷八重子によっても演じられた。
八重子初演=昭和28年10月新橋演舞場
あらすじ
井伊直弼は妾腹の子で、明け暮れ国学にいそしみながら気ままな生活を楽しんでいた。ある日直弼は共通の友人である三浦北庵の紹介で長野主馬(しゅめ)と出会い、国学を通じて友人となった。主馬はふとしためぐり合わせで遊芸の師匠をしている村山たかを知り、彼女の美貌に心を奪われた。たかもまた主馬に魅かれていた。そのたかがくるわ論議にひっかかりお召し捕りになったときに主馬は直弼に相談し、彼女のために口を利いてやり釈放された。そのことがきっかけとなり、主馬との関係を知らなかった直弼とたかは深い仲となる。やがて二人の関係が主馬の知るところとなり、主馬の本心を知った直弼はたかとの関係をきっぱりと絶ち、改めて主馬と師弟関係を結ぶことを約束する。たかと別れたその夜、直弼は跡継ぎがいないことから彦根藩主となることが正式に決まる。その後直弼は幕府閣僚として多忙を極めていたが、黒船が来航したことにより時代が大きく変わってくる。直弼は開国以外に日本が生き残る道はないと意を決しておりたかも三味線と女を武器に好きでもない男と結婚までして、直弼のためにひそかに働いていた。やがて大老となった直弼は国のために安政条約を強引に調印する。そのことから攘夷派の恨みを買い、万延元年の3月3日、直弼は水戸浪士の手にかかりその命を落とした。