八重子十種
大尉の娘
中内蝶二(1875~1937)作。大正11年6月明治座で井上正夫、花柳章太郎により初演、好評を博した。
翌12年7月浅草御国座で娘露子を初代水谷八重子が初演、重厚な演技で知られた“中間演劇”の創唱者井上正夫と当時18歳の麗花水谷八重子の取り合わせは、まったく好配色の舞台を成し観る人々の共感を誘った。
八重子初演=大正12年7月御国座
あらすじ
大正の中頃、信州の木曽に近い小村の退役軍人で教員の森田慎蔵の娘露子は村長の弟の息子六松と恋仲になり子までなした仲だったが添うことはできず、生まれた子供は里子にだし、露子自身も東京へ奉公に出ていた。その六松の婚礼の夜、偶然にも奉公先から帰ってきた露子はその婚礼を知り、ひそかに抜け出して様子を見るうちに嫉妬から思わず火を放ち、その火事で花嫁が焼死してしまう。式に参列しておりその火事場から娘の草履を見つけた慎蔵は露子が放火の犯人と悟り、諄々と娘に死を諭し、覚悟を決めた露子を自らの手で殺して自身も自殺する。