八重子十種
風流深川唄
川口松太郎作。小説の「風流深川唄」は昭和10年直木賞受賞。舞台化されたのは昭和11年10月東京劇場で花柳章太郎、大矢市次郎等によって初演された。木場深川を背景に、料亭を舞台に古い伝統の中に生きる川筋の人々の義理人情の物語は新派劇の代表的な演目の一つ。
八重子初演=昭和13年12月東京劇場
あらすじ
深川仲町の会席料理「深川亭」は江戸時代から続いている有名な店だった。この店の主人、利三郎にはおせつという美しい娘があったが、自分は妾の常磐津の師匠の家に入り浸り、店のことはこのおせつに任せていた。おせつは店の腕利きの板前長蔵と恋仲であり、近い将来夫婦となってこの店を引き受けることを楽しみにしていた。そんなある日、利三郎の恩人が借金を申し込んできたことから義理人情に厚い利三郎は深川亭を売って資金を作ろうとした。親戚が集まって話し合いをしたが誰も親身になってはくれず、深川亭が人手に渡る危機がせまる。そんな中、伯父の伊勢春は金の調達をするかわりにおせつを金主の息子に嫁がせろと言う。おせつと長蔵の事を思い嫁入りをさせまいとする利三郎だが、長蔵の母お常は恩ある利三郎への義理から長蔵を店から引き取ってしまう。すべてに絶望したおせつは家のために嫁入りを決意するが、式の当日、長蔵が花嫁姿のおせつを奪い去る。その後深川亭は店をたたみ新たに小さな小料理屋を長蔵とおせつの二人で開いて幸せに暮らす。