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作品紹介

花柳十種

夢の女夢の女

永井荷風の原作を久保田万太郎が脚色・演出し、昭和35年10月に新橋演舞場で初演。洲崎で全盛を張ったお職女郎・楓の役作りの為、花柳章太郎が小雨煙る隅田川畔を丹念に探訪したと言われている。

花柳の役=お浪(初代楓)

あらすじ

明治35年ころの12月、当時汐留にあった新橋駅構内の食堂に、上品な奥様風のお浪が、三年振りに偶然出会った妾時代の婆やのおさわを伴って入ってきた。注文を済ませるや否やお浪が尋ねたのは、三年前旦那に死別した時おさわに預けた、当時生まれたばかりの子供の事である。山の手の立派な家でわが子同様にかわいがられているとばかり思っていたのだが、実子ができてからは虐待されていると聞いてお浪は引き取ろうと言い出した。だがお浪はおさわに現在の住所を教えず、自分の方から連絡するからと告げると、俥を頼み食堂を出ていった。その時すれ違った客の一人がお浪を見咎めた。彼らの仲間の小田辺が夢中で通い詰めている、洲崎の八幡楼のお職の楓に違いないというのだ。
数時間後、楓の部屋でその小田辺が待っていた。小田辺は楓に入れ上げて破産し、親類友人にも見放されている有様。そこへ楓がやってきたが、何処か冷静で自分の懐に飛び込んでくる様子はない。小田辺は楓と争った挙句、絶望して毒を呷った。
翌年の春、小田辺の自殺から人気を落とした楓は、お職の地位からも落ち、勤めもおろそかにして新造のお松の忠告も無視する荒れ様だったが、今はおさわに引き取らせた子供に会う事をたった一つの楽しみにしていた。その日も子供に会った楓は、おさわにしみじみと慰められ励まされて、もう一度以前の全盛を取り戻そうという気になった。楓はその夜、以前の商売熱心な気持ちになって初会のお客に接した。その客は上郷という相場師で、お互いしっくりくるものを感じ、その夜上郷は即座に楓を落籍したのだった。
それから五年後、土手の上で海を眺めながら引手茶屋のおつねから初代楓の話を聞いているのは、二代目の楓だった。折から、土手の向こうに舟が着いたらしく、数人の客が上がってきたが、その中に意外にも初代楓のお浪が混じっていた。悲しい宿命を背負わされた二人の女はしみじみと語り合い、お互いに相手の中に自分の姿を感じ合った。連れの騒ぎに加わる気も失せてそのまま舟で引き返すことにしたお浪を、二代目楓はいつまでも手を振って見送っていた。

花柳十種
歌行燈
鶴亀
大つごもり
あじさい
「夢の女」
鶴八鶴次郎
遊女夕霧
佃の渡し
京舞

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