初春新派公演『麥秋(ばくしゅう)』
製作発表記者会見
1月三越劇場、初春新派公演『麥秋』で脚本演出を手がける山田洋次監督と出演者らが製作発表記者会見を行い、公演への思いを語りました。
山田 洋次
小津安二郎監督の映画の世界が持っているムードは、新派の舞台でなら再現できるのではないかとかねがね思っておりました。今回のように芝居の脚本を書き、一から演出するというのは初めてのことですが、新派の皆様のお力をお借りして良い作品にしたいと思っております。
『麥秋』は三世代が狭い家の中で暮らす、一昔前の日本では当たり前のようにあった家族の物語です。お互いに心遣いをし、時として波風が立てばそれをどうやって鎮めていくのか、かつての日本人が持っていた独特の暮らしの知恵を描いています。今回の舞台でもそうしたものを大切に描き、行く先が不透明で不安定な今の日本の暮らしが、将来どうなればいいのだろうかということを、観客の皆さんが考えてくれたらいいなと思っています。
小津作品には必ず戦争の傷跡が描かれ『麥秋』の中でも兄が戦死しています。可愛がっていた息子の死、兄を慕っていた妹の悲しさを強調する中で、日本人が今から60年前に経験した歴史を振り返る作品になればと思っています。そして小津監督に捧げる、小津さんが見ても「とてもいいじゃないか」と言っていただけるような作品にしたいですね。
水谷 八重子
戦後の日本人の普通の生活、小さな家庭の中での人と人とのふれあいや生き方を描く今回の作品ほど、劇団の力が試される作品はないのではないでしょうか。どんな時代のどんな家庭でも、それを新派が演じたなら必ずそこに家族の生活が成立する、新派はそんな劇団でありたいと思っています。
私が演じる間宮志げは、間宮家の障子や天井のように、この家の一部となっている母親です。人の目にはとまらないけれど必ずそこに存在している、そんな母親像を作りたいと思っています。
波乃 久里子
山田監督の隣でこのように『麥秋』の製作発表が行えますこと、何か夢のようでもあり、本当に良い緊張感を感じております。そしてお正月早々、新派の夜明けになるような公演を勤めることができて本当に嬉しく思っております。主人公の紀子さんは、私がつとめる間宮史子にあこがれのようなものを抱いているのではないでしょうか。そのような史子でいたいと思っています。
安井 昌二
間宮家のおじいちゃん、周吉をつとめさせていただきます。私は昭和3年生まれなもので、ちょうどこの時代に生活をしてきた者でございますので、自分の父親の姿を思い浮かべながら、自然な芝居を心がけてこの作品に取り組んで行きたいと思っております。
英 太郎
矢部たみをつとめさせていただきます。山田監督は、以前歌舞伎(シネマ歌舞伎)では女方さんのご指導をなさっておられますが、新派の女方は初めてご指導いただくことになります。昭和のこの時代をつとめられますことを嬉しく思うとともに、監督のご指導を今から楽しみに致しております。
瀬戸 摩純
山田監督、新派の大先輩方とご一緒して一つの家族のお芝居をやらせていただくという事をとても嬉しく思っております。私がつとめます間宮紀子は、映画では原節子さんが演じられていたお役です。それを考えますと手も足も出なくなってしまいそうなので、山田監督にご指導いただいたことを大切に、そして皆様の足を引っ張らないように、全力でつとめさせていただきたいと思っています。