創立者・大谷竹次郎の
ことば
私は演劇、映画に関する図書館の必要性を早くから感じていた。たまたま三十年に文化勲章をもらう栄に浴したが、これも私個人がもらったものではなく、演劇、映画界を代表してもらったのだと考えたとき、年金の有効な使途について思い当たったのが、自分がふだんから頭を悩ましていたそれらの資料のことだった。ほかにもきっと困っている人がいるに違いないということからさっそくこれを実行に移したわけだ。これを一般に開放して役に立てようというのがネライだった。
つい先日もうちの子どもたちが集まった前で、私も年だし万一のことがあっても、この松竹大谷図書館だけは絶対に続けてほしい。遺言状にもそれを書くよといっておいた。
開館のときもっと宣伝したらという声もあったが、不完全なものを仰々しくするのは恥ずかしいからとそれには応じなかった。それでも聞き伝えて好劇家の方たちが何かと私に寄せられた数々のご好意には心から感謝している。
現在予算の面で苦しいことは確かだが、私としてはこれをもっと完全なものにして、その時こそ皆をよんで是非とも見てもらいたいと思う。
この図書館は一般の愛好者はもちろんのこと、とくに俳優たちはもっともっと利用すべきだ。ほかの興行関係者も遠慮なく利用してもらいたい。
(『読売新聞』昭和 34 年 10 月 31 日夕刊より)
概要・沿革
- 昭和30年(1955)11月
- 大谷竹次郎文化勲章受章
- 昭和31年(1956)12月26日
- 財団法人 松竹大谷図書館設立
- 昭和33年(1958)7月1日
- 松竹会館9階に開館
- 昭和44年(1969)12月27日
- 大谷竹次郎没
- 昭和47年(1972)2月14日
- 大谷竹次郎賞設定
- 昭和50年(1975)12月
- 松竹会館9階から2階へ移転
- 昭和53年(1978)6月24日
- 第13回 長谷川伸賞受賞
- 平成10年(1998)12月
- 東劇ビル1階へ移転
- 平成11年(1999)5月10日
- 東劇ビル1階にて開館
- 平成14年(2002)2月14日
- 図書館サポートフォーラム賞受賞
- 平成14年(2002)7月
- 松竹大谷図書館ホームページ開設
- 平成14年(2002)10月
- ADK松竹スクエア3階へ移転
- 平成15年(2003)1月
- ADK松竹スクエア3階にて開館
- 平成16年(2004)1月
- 図書管理システムでの資料整理開始
- 平成20年(2008)7月
- 開館50周年
- 平成21年(2009)6月
- 平成21年度専門図書館協議会団体表彰を受ける
- 平成23年(2011)6月
- 公益財団法人へ移行
- 平成24年(2012)10月
- 第1弾クラウドファンディングに成功
- 平成30年(2018)7月
- 開館60周年
- 令和4年(2022)10月
- 第11弾クラウドファンディングに成功『鏡獅子』を4Kデジタル修復
- 令和5年(2023)7月
- 開館65周年
演劇・映画の
専門図書館の
設立から開館まで
松竹株式会社は、白井松次郎、大谷竹次郎という双子の兄弟が、明治28(1895)年に歌舞伎の興行に参加したことを創業とする、百十年以上の歴史をもつ演劇・映画の興行会社です。松竹の歌舞伎興行の歴史は近代歌舞伎の興行の歴史と言っても過言ではありません。また、大正9(1920)年には映画の製作にも着手し、数々の名作を世に送り出しています。
大谷竹次郎が、その功によって文化勲章を受章したのは、昭和30(1955)年のことでした。「この文化勲章は、私個人がもらったものではなく、演劇、映画界全般が受章したものだ。」と考えた竹次郎の脳裏に浮かんだのは、以前から懸念のひとつだった、松竹並びに竹次郎個人が所蔵する膨大な資料。これらの資料を、ひとつの会社または個人が所有するのではなく、一箇所に集めて管理し散逸を防止し、一般に公開して社会のために役立てよう、と考えたのです。
当時、このような専門図書館は、早稲田大学の演劇博物館のみでした。一企業が社内の利用に限定せず、一般に開放された演劇・映画の専門図書館をつくるというのはめずらしく、愛好家や俳優たち、ひいてはほかの興行関係者たちにも利用してもらおうと設立を計画したその考えは、画期的だったといえます。
そして、大谷竹次郎は、昭和31(1956)年12月に文化勲章の年金を資金として「大谷」の名を冠した演劇・映画に関する専門図書館「財団法人松竹大谷図書館」を設立しました。
財団設立から開館までに与えられた準備期間は一年半のみでした。この短い期間で、くずし字で書かれた歌舞伎の台本や浄瑠璃本、その他の演劇プログラム、映画パンフレット、テレビの台本、図書、雑誌、演劇・映画のプログラム、ポスター、写真など、普通の図書館に比べてはるかに多様な資料を整理しなければなりませんでした。
当館最初の専門職員として着任し、開設準備を主導した小河明子は、図書館司書の資格は持っていましたが、演劇・映画の知識はほとんどありませんでした。しかし、最初に整理方法を決定することが重要と考え、大学の図書館学の教授や国立国会図書館の教えを受けて、全国の図書館が採用している「日本十進分類法」を採用し、演劇・映画の専門分野は分類を特に細分化して「芸術部門細分表」を考案しました。これによりスムーズな資料登録が可能となりました。パソコンでのデータ入力に移行した現在でも、この細分表に従って整理されており、当館の重要な基盤となっています。
また、資料の整理・保存方法にも独自の工夫を凝らしました。図書のようにしっかりした作りではない台本などは書架に立てにくい為、板目紙でカバーを作成して長期保存に耐えられるように補強を施しました。スチール写真も、いつどこで上演されたか分かるように、裏に作品タイトルや上演年月などの説明を一枚ずつ記載して整理し、一目でわかるようにしました。
他にも、明治以降から現在までの大劇場で上演された演劇の上演記録をカードで作成し、過去の上演資料を探すのに役立つように考案するなど、工夫は多岐に渡っています。この上演記録も現在ではデータベースへ移行して管理しています。
こうして一年半の準備期間の後に、一部未整理の資料を残しつつも、昭和33(1958)年7月1日に松竹会館の9階にて開館しました。
当時の資料の総数は、歌舞伎を含む演劇・映画の台本を中心に約2万点。スチール写真が6万枚。また、昭和26(1951)年1月に逝去した大谷竹次郎の双子の兄である白井松次郎の約3千冊に及ぶ蔵書も「白井文庫」として収められ、貴重な資料となっています。
松竹関係だけでなく、当館の活動にご賛同いただいている各社、各団体、そして個人の方からのご寄贈もあり、蔵書数は年々増加し、現在では50万余点の資料を所蔵しています。
大谷竹次郎賞について ―新作歌舞伎の発展のために―
松竹大谷図書館は、新作歌舞伎の優れた脚本に贈られる大谷竹次郎賞を松竹株式会社と共催しております。大谷竹次郎賞は、新作歌舞伎の脚本賞を設ける事を願っていた大谷竹次郎の遺志を継いで、昭和47(1972)年2月14日に設定されました。令和3年度で50回目を数え、本賞に25作、奨励賞に8作の受賞作品を選出しています。この賞の特色は、作品の芸術的純正度のみに偏らない、特に娯楽性に富んだ歌舞伎脚本を対象としているところにあり、当初の選考委員の一人であった作家の舟橋聖一は「舞台にではなく脚本に与えられるところが異色だ」と述べています。
選考対象となる脚本は、毎年1月より12月までの公演で、松竹系に限らず、歌舞伎俳優によって上演された新作の歌舞伎及び歌舞伎舞踊の脚本です。大谷竹次郎の誕生日(12月13日)にちなんで毎年12月中旬に受賞作を発表し、各新聞紙上並びに松竹系各劇場プログラムなどで告知を行っています。
当館からは大谷竹次郎賞の副賞の記念レリーフを、「松竹大谷図書館賞」として受賞者に贈呈しています。今後も歌舞伎の更なる発展のために、その一端を大谷竹次郎賞が担っていくことを目指しております。
受賞歴 ―活動の成果―
長谷川伸賞
松竹大谷図書館は、昭和53(1978)年に開館20周年を迎え、この記念となる年に、第13回「長谷川伸賞」を受賞しました。長谷川伸賞は、財団法人「新鷹会(しんようかい)」から贈られる賞です。新鷹会は、小説家・劇作家の長谷川伸を中心に、新しい文学の創造と開拓を目指すことを目的とした会で、長谷川伸没後は、その遺志と全遺産を継承して、財団法人として昭和38(1963)年に発足し、現在は一般財団法人として現在までその活動を続けています。
この賞は、大衆文芸や演劇、評論などで、地味ながら価値ある仕事を続け、世間にあまり知られてない人を発掘し顕彰することを目的としており、昭和41(1966)年の第1回より現在まで、年一回催されています。当館が所蔵する約23万点(当時)の演劇・映画の資料を広く一般に公開して社会文化に寄与した功績に対して、賞が授与されました。
開館20周年という節目となる年に受賞できたことは、活動の成果を示すひとつの出来事といえます。
図書館サポートフォーラム賞
平成に入ってからは、平成14(2002)年に第4回「図書館サポートフォーラム賞」を受賞しました。図書館サポートフォーラム賞は、「図書館サポートフォーラム」が設立した賞です。この会は平成8(1996)年に創立されました。図書館関係者・出身者で、各界で活躍中の人を中心に組織され、「現職者との連携のもとに相互の交流をはかりながら各種図書館活動の発展をサポートする」という趣旨で活動を行っています。表彰事業は、従来の枠にはまらないユニークな活動、社会的に意義のある活動を行っている者及び団体を表彰し、図書館活動の社会的広報に寄与することを目的としており、会の活動の中でも重要な事業となっています。
当館は、「国内随一の演劇・映画総合専門図書館を一民間団体として運営し、研究・教育など社会に貢献を続けている功績」が認められ、受賞しました。
専門図書館協議会団体表彰
専門図書館協議会は官庁・地方議会・民間各種団体・調査研究機関・企業・大学など図書館、資料室、情報管理部門相互間の連絡と図書館活動の有機的連携をはかり、その向上と発展に資することを目的として活動している全国組織の任意団体で、現在約520機関が参加しています。
毎年、6月の総会の折に功績が認められる会員機関の表彰を行っていますが、平成21(2009)年は当館が表彰され、50年にわたる演劇・映画の専門図書館としての活動にエールを送っていただきました。
READYFOR OF THE YEAR
2011年から始まったクラウドファンディングREADYFORで生まれた様々なプロジェクトを表彰する「READYFOR OF THE YEAR」にて、当館の第一回目のプロジェクト「歌舞伎や『寅さん』、大切な日本の文化の宝箱を守る」が、2012年度の優秀賞を受賞しました。>
また、2016年9月から2017年8月までに成立した1185件のプロジェクトを対象とした「READYFOR OF THE YEAR 2017」では、当館が2016年に実行した「【第5弾】歌舞伎や映画、鮮やかな日本文化の遺産を守り復元する。」プロジェクトが、今後のクラウドファンディングのお手本となるべき取り組みに贈られる「READYFOR賞」を受賞しました。
多くのプロジェクトの中から特に当館の取り組みを高く評価していただいたことに勇気づけられ、その後も毎年クラウドファンディングへの挑戦を続けることができました。