#010
音響 森島朝来
――これまでのご経歴を教えてください。
森島 元々コンサートなどが好きで、千代田工科芸術専門学校に入学し音響の勉強を始めました。卒業後は、新宿コマ劇場で社員として働いていた後、1992年に(株)ショウビズスタジオ(現 松竹ショウビズスタジオ (株))に入社をしました。入社後も新宿コマ劇場でしばらく働き、明治座、歌舞伎座、現在の新橋演舞場と、とにかく様々な劇場を経験しました。
――演目が決定してから本番に至るまで、音響はどのような仕事をされているのでしょうか。
森島 前月の公演が終わる1週間前に、音響プランナーと来月の演目についての「公演打ち合わせ」があります。音響プランナーは、芝居の演出や内容にあわせて選曲や音をプロデュースする、公演のメインスタッフです。その意向に合わせて、スピーカーの位置や音を出すタイミング、どの音を出すのかを決めていきます。稽古期間中も稽古場に行き、「仕込み」になると舞台にスピーカーを吊ったり、音響機材のセッティングをします。その後、大道具や小道具の細かい最終チェックをする「道具合わせ」、照明を実際に俳優さんに合わせて調整をする「あかり合わせ」、大道具・小道具・照明・音響など、全ての確認をする「場当たり稽古」、本番通りにリハーサルを行う「ゲネプロ」を経て「本番」となります。
これら一連の流れは同時進行で、音楽や効果音も実際に音を出して調整をしています。ミュージカルの場合、俳優さんが歌うので、立っている場所に合わせて舞台袖のスピーカーの位置を調整する必要があります。また、ワイヤレスマイクを付ける場合は、「ゲネプロ」時に音量の調整をしていきます。声の大小や質に違いがあるため、客席から平等に聞きやすい音にしていかなければいけないからです。音響プランナーからは、“音をもっとクリアにしてほしい”や、“音が聞こえてくる位置をもっと前からにしてほしい”などといった要望が来ます。
初日があけると、開演の約2時間前に劇場に入り、念入りに音響システムや音源、マイクのチェックを行います。 本番中は、劇場後方の音響室で調整しています。ミュージカルや海外の演劇の場合、客席をいくつか使って音響卓を置き、お客様と同じ状況下で作業をします。しかし、日本の演劇の元である歌舞伎は生音が基本であるため、その延長にある音響は表には出てはいけません。まさに影の人間です。
――本番は何人体制で作業をされているのでしょうか。
森島 平均で4人ぐらいです。役割は大きくマイクオペレーター、SE(音響効果)オペレーター、ステージの3つに分かれます。マイクオペレーターは、マイク全体を管理し、SEオペレーターは音楽や効果音を出すシステム周りを、ステージは俳優さんにつけるワイヤレスマイクのケアや舞台上のモニターなどのケアを担当します。通常若手は、マイクやスピーカーの性能を最も知ることができる、ステージから始まることが多いですね。公演によっては、「乗り込みチーム」といって、劇場にいる音響ではなく、公演に付いている音響チームがいることもあります。その場合は、私たちは劇場の音響管理を行い、音声ラインをもらって、劇場のシステムを通して客席や舞台上に音を出したり、楽屋やロビーに芝居の進行が分かるように音響のセッティングをしたり、乗り込みチームの手助けをします。
つづく