#01

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河合 雪之丞 × 二代目喜多村 緑郎

――歌舞伎の場合、「決まるところで決まる」心地よさがありますが、新派の場合、わかりやすく「決める」のではなくて、そこをセーブする感覚がありますよね。それは微妙な味だけど、わかるととても面白い。

喜多村 歌舞伎だったら、何が何して何とやらってこうやって決まるんだけど、新派は何が何して何とやらって、もう終わっているんだけど、まだ何かぬーっと余韻を持たせるとか、そういう美しさ。それによってリアルに心情が出たり。

河合 またそれがぱっと決まらなきゃいけないところは決まれる。決まっちゃいけないところは決まらないみたいな。

喜多村 うちの旦那(二代目猿翁)がよく型破りというのは型を知っているから破ることができるんだからと言っていた。そういう意味では、新派も壮大なる型破り世界なんですよ。型を分かっていて、それをうまくすっとはぐらかしてみるとか、そういうおしゃれさ、面白さ。

――今年は新作の『黒蜥蜴』を上演されました。新派の古典演目の継承がある一方、新派の今後に関して大きな可能性を感じました。

喜多村 照明や音楽も含めて、現代の感覚の中でいかに、新派が持っているおしゃれさというものを新しく提示できるか。そういう気持ちで『黒蜥蜴』を発表したんです。

河合 歌舞伎もできたときは新作だったわけですよね。それが、面白いものだけが演じ続けられてきていまに残っている。新派も同じで、今回の『黒蜥蜴』が演じ続けられれば古典と呼ばれる演目になる。

喜多村 やはり猿翁がよく言っていたんだけれども、古典と新作というのは両輪でなくてはならない、と。古典ばっかりやっていると、新しいお客さんというのは絶対に増えないわけです。常に新しいこともやりながらの古典への回帰、そして創造と、それが両輪になっていることが重要だよと仰っていた。

河合 新作じゃなくて、従来からある新派のお芝居を見ていても、旦那だったらこうするだろうな、旦那だったらこう言うだろうなというのはやっぱり・・・

喜多村 常に。

河合 浮かんでくるね。

喜多村 新派には大きな懐があって、たとえば『鹿鳴館』のように上流階級の話とか、『葛西橋』のように庶民の話とかいろいろな顔がある。ある時代のいろいろな人間模様というのが面白く描かれている作品が多数あるので、まずジャンルとしてもっと広く知ってもらいたい。

河合 二人ともそんなことばかり考えています。

喜多村 新派はまだまだ変化できるし、面白くなると思います。

おわり

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#02

二代目 喜多村緑郎(きたむらろくろう)

昭和63年国立劇場第9期歌舞伎俳優研修修了後、市川段四郎に入門、市川段治郎を名乗る。平成6年三代目市川猿之助(現猿翁)の部屋子となる。平成20年スーパー歌舞伎『ヤマトタケル』に主演するなど活躍。平成23年『日本橋』で新派初参加、平成28年1月劇団新派へ入団。同年9月、市川月乃助改め二代目喜多村緑郎を襲名。その名を55年ぶりに復活させた。

河合雪之丞(かわいゆきのじょう)

昭和63年国立劇場第9期歌舞伎俳優研修を修了後、三代目市川猿之助(現・二代目市川猿翁)に入門し春猿を名乗り、のちに部屋子となる。人気女形俳優として活躍。 新派公演の参加は平成22年から女形として主演。その後『明治一代女』で初の立ち役、『狐狸狐狸ばなし』のおきわ役も話題に。平成29年『華岡青洲の妻』で劇団新派に入団、河合雪之丞と改名した。

インタビュー・文 和田尚久(わだなおひさ)

放送作家・文筆家。東京生まれ。 著書に『芸と噺と 落語を考えるヒント』(扶桑社)、『落語の聴き方 楽しみ方』(筑摩書房)など(松本尚久名義で上梓)担当番組は『立川談志の最後のラジオ』、 『歌舞伎座の快人』、『青山二丁目劇場』(以上、文化放送)、『友近の東京八景』、『釣堀にて』(以上、NHKラジオ第1)ほか。