大ヒットを記念したティーチイン付上映会が、4月16日に新宿で行われ、吉田大八監督と、脚本を監督と共同執筆した楠野一郎氏、本作で松岡茉優演じるヒロイン高野恵の父・高野民生を演じた塚本晋也氏が登壇しました。
まずは原作がある作品の映画化について問われると吉田監督は、「原作は原作として世の中に出るタイミングと、映画が世の中に出るタイミングが結果的に3,4年くらい開くのは分かっていたので、その間に出版業界や世の中も変わるだろうと見越して、原作のスピリットは頂きつつ、新たに取材をしていくと、僕の目からは違う問題点や切り口が見えてきたので、それを盛り込んで脚色を進めていきました」と語り、脚本の楠野氏は「僕のところに話が来た時点で『沈み行くタイタニックの中での仁義なき戦い』という非常に分かりやすく、出版業界の辛い中での有象無象が生き残りのためにやっていく、ブラックコメディに見えるような話と受け止めました」と補足。
また塚本氏へ出演をオファーする際には、「自分の中ではただの俳優さんだけの方ではないので、脚本を送って『どうでしたか?』と訊くのも怖かった」という監督に対し塚本氏は、「まず脚本をウキウキして読んだんです。凄く面白くて!それに僕は本が大好きで。日頃から、本はこれからどうなっちゃうんだろうなと思ってたんですよね。自分の問いかけをサスペンスとして答えてくださるようなスリリングさがあって、神髄に段々触れていくような話だったので、面白くて為になる、素晴らしい脚本だと思いました」と脚本の感想を語りました。
その塚本氏の言葉を聞いた時に「今、死んでもいい」と思ったという楠野氏は、「僕は脚本家でもありますけど、イチ映画ファンなので、塚本さんの存在は特別で。脚本を塚本さんに読まれる緊張があって、それで塚本さんが本作に出ないってなったら『俺の責任じゃん!』と思った」と当時を思い出しつつ大興奮。すると塚本氏は、「恐れ多いです。大体最後は絶叫で終わっちゃう私のような映画監督が、こんな立派な脚本を書かれる方に、そんなことを言われたら恥ずかしいです」とお互いを尊重し合いました。
今回の上映は、「5回目です」など『騙し絵の牙』の虜になっている人もいる大勢のお客様でいっぱいとなりましたが、お客様からも質問を受け付ける展開に。
大泉さんの当て書きについて訊かれると監督は、「大泉さんがよく取材とかで仰っていたのは『当て書きだから楽に出来ると思っていたら、ことごとく否定されて本当にやりにくかった』ということを“大泉さんっぽい言い方”で言うんですよ。(笑) でも最初は意味が分からなかったんです。当て書きは『素のままやってください』ということではないですよね。僕も楠野さんも大泉さんに当て書きをしたんです。当て書きという言葉の意味が、大泉さんの中で微妙に違っていると思うんです。(笑) 当て書きの意味が間違って定着したら、それは大泉さんのせいです(笑)」と思わずやんわりとしたクレーム調になると会場は笑いが溢れました。「僕の中の速水のイメージと(大泉さんの演技のイメージが)異なった時に『大泉洋っぽいから(NG)』と口走ったんだと思うんです。覚えてないけれど(笑)」と撮影秘話を告白しました。
次のお客様に、したたかで個性的なキャラクターについて問われると監督は、「特にこの話は、リアルな社会の動きを意識して作っているので、あくまで途中経過です。野球でいうと何回表か裏か分からないですけど、この先まだ速水も反撃するだろうし、薫風社や他の大企業が大きな資本で何かを作るかもしれないし。楠野さんと言っていたのは、悪い人は誰もいないんだということ。それぞれに出版という仕事に意義を感じていて、本に愛着があって、自分たちなりのやり方で本を生き残らせようとしている。そのやり方の違いで衝突が起こる。その闘いなんです」と解説。
続けて塚本氏が「悪い人がいないのが凄い好きでした。悪役みたいに演じるなんてことはこの映画は有り得ないと思って。それぞれの形で本のことを愛している人たちです。佐野史郎さんも一見悪役に見えますけど、薫風社のことを言われると怒りますよね。惨めな姿でありながら自分の会社に誇りを持っています。速水と東松さんが一番したたかで悪人の一歩手前に見えますけど、素晴らしいのは、本屋さんで買う人を見ないと安心できない姿ですね。そして、万歳してしまう喝采のラストシーンです!!」と本や本作への熱い愛を語りました。
最後に「松岡茉優さんの未来を予想してください」と訊かれた監督は、「(8年前に松岡茉優さんが出演した)『桐島、部活やめるってよ』の時は、その時にしか出せない彼女の力があったと思うし、今回はこの歳じゃなきゃ出来ない彼女の役にしてくれました。松岡さんは凄い勢いでキャリアを重ねながら成長しているのに、自分は成長していないどころか、落ちたなと松岡さんに思われたくないなと、ひとりで悶々と抱えていました。監督という立場を離れていえば、若い時から知っている人が頑張っている姿を見るのは熱くなるものがあります。松岡さんは真面目だし、良い仕事を重ねていくのは間違いないと信じています」と未来を予想して、舞台挨拶は幕を閉じました。