指揮:ジェイムズ・レヴァイン 演出:ロベール・ルパージュ
出演:ブリン・ターフェル、ステファニー・ブライズ、リチャード・クロフト、エリック・オーウェンズ
上映時間:3時間11分(休憩2回) MET上演日:2010年10月9日
はじまりはニーベルング族アルベリヒがラインの娘たちから「ラインの黄金」を奪ったことだった。黄金から指環を作れば無限の権力を得られるのだ――。その頃神々の長ヴォータンは居城ヴァルハルを建てた報酬のことで巨人兄弟ともめ、火の神ローゲの知恵で地底のアルベリヒの元へ宝を求めに行く。そこで指環の存在を知ったヴォータンは狡猾にそれを取り上げるが、指環には呪いがかけられ、巨人に渡す羽目になる。城は完成。しかし神々の、世界の滅亡が始まっていた・・・。
足かけ30年をかけて完成させた、ワーグナー畢生の大作の序夜。鮮やかなオーケストラの表現力と声を極限まで拡大して描く大河ドラマで、どの時代の感情や哲学もリンクする驚くべきオペラだ。これほど世界中のオペラハウスが威信をかけて制作するオペラもないだろう。
指揮:ワレリー・ゲルギエフ 演出:スティーヴン・ワズワース
出演:ルネ・パーペ、エカテリーナ・セメンチュック、アレクサンドルス・アントネンコ
上映時間:4時間18分(休憩2回) MET上演日:2010年10月23日
子供が居ない皇帝フョードル1世が没し、彼の弟でまだ幼いドミトリーが後継者と目された。しかし、そのドミトリーが変死。彼を暗殺した疑いのある摂政ボリス・ゴドゥノフがついに皇帝の位に就く。しかし僧院では青年グリゴリーが老僧ピーメンからボリスについての真相を聞き、秘かな野望を抱いていた。グリゴリーは死んだドミトリーになりすまし、反乱軍を組織する。一方ボリスは野望を達成し、将来は自分の子に帝位を継がせようとしているが、反面、良心の呵責に苛まされ、あげくは政治も行き詰まり国は荒廃していった。次第に乱心していくボリス。そしてグリゴリーの野心は・・・。
人間の真実を追求したムソルグスキーによるロシア・オペラの金字塔。まるでドストエフスキーの小説のような世界に、ゲルギエフが魂を吹き込む。
指揮:ジェイムズ・レヴァイン 演出:オットー・シェンク
出演:アンナ・ネトレプコ、マシュー・ポレンザーニ、マリウシュ・クヴィエチェン、ジョン・デル・カルロ
上映時間:3時間6分(休憩1回) MET上演日:2010年11月13日
所はローマ。大金持ちの老人ドン・パスクワーレは花嫁募集中。友人の医者マラテスタが美人の妹を紹介してくれるという話に上機嫌だ。一方、甥のエルネストは財産を譲り受けて愛するノリーナと結婚しようとしていることを反対され、逆にパスクワーレが、マラテスタの妹がノリーナとは知らずに結婚しようとしていると聞いて仰天、悲嘆にくれる。そのことをエルネストからの手紙で知ったノリーナは兄と相談。彼は妹を淑女に仕立てて偽の結婚をさせ、パスクワーレを我がまま放題振り回して結婚をメチャクチャにする計画を開始する!パスクワーレのもとに現れるノリーナを見て慌てるエルネストだが、老人をあの手この手で困らせるノリーナの芝居を見て状況を飲み込み、事はエスカレート。さあ、結末やいかに?
「ランメルモールのルチア」の悲劇とは正反対、同じ作曲家が最晩年に残したイタリア・オペラ・ブッファ(喜劇オペラ)の傑作だ。愉快な音楽にのせて、選り抜きの歌手たちが軽快な技巧で声を転がしていく。
指揮:ヤニック・ネゼ=セガン 演出:ニコラス・ハイトナー
出演:ロベルト・アラーニャ、マリーナ・ポプラフスカヤ、サイモン・キーンリーサイド、フェルッチオ・フルラネット、アンナ・スミルノヴァ
上映時間:4時間24分(休憩2回) MET上演日:2010年12月11日
16世紀、フランドル地方を支配しているスペイン。父であるスペイン国王フィリッポ2世の妃エリザベッタと愛し合うカルロ、彼と義兄弟の誓いをたてフランドルを救おうとするロドリーゴ、カルロを愛するが彼の本心を知って嫉妬に燃えるエボリ公女、そして王でありながら宗教の強大な力に勝てず、王妃の愛も得られず、さらに息子の言動にも苦しむ王フィリッポ・・・。それぞれの葛藤のドラマが進行する中、カルロはロドリーゴの友情によってフランドルを救うため立ち上がるが、父によって捕らえられてしまう。エリザベッタもまた胸に秘めたカルロへの愛を暴かれ、さらに夫とエボリの不倫も知ることになる。それぞれの運命が、今やからみつくように執念深く彼らに迫っていた・・・。
ドラマと音楽の融合に一生を賭けたイタリア・オペラの雄、ヴェルディがその後半生に渾身の力を充溢。強靭な声とシンフォニックな管弦楽で描く、重厚な大悲劇だ。
指揮:ニコラ・ルイゾッティ 演出:ジャンカルロ・デル・モナコ
出演:デボラ・ヴォイト、マルチェッロ・ジョルダーニ、ルチオ・ガッロ
上映時間:3時間28分(休憩2回) MET上演日:2011年1月8日
開拓時代のアメリカ西部カリフォルニア。酒場の娘で女主人のミニーは鉱夫たちのマドンナで、彼らに聖書を読み聞かせる優しく気丈な女性。保安官のジャック・ランスはそんな彼女に求婚するが彼女の理想は高そうだ。そこへ盗賊で追われる身のラメレスが“ディック・ジョンソン”と名乗って現れ、ミニーとジョンソンはあっという間に恋に落ちる。ランスはジョンソンを疑い、嫉妬心交じりで彼を追い、ジョンソンはミニーの家から出てきたところを撃たれてしまう。ミニーはジョンソンをかくまい、その身をかけたポーカー勝負で辛うじて勝つものの、彼はやがて捕まってしまう。処刑まであと少しと迫った中、ミニーは身を挺して愛する男を救いに駆けつける!
100年前にMETで世界初演され、西部劇の痛快さにプッチーニ流の繊細な抒情と人間観を盛り込んだ意欲作。
指揮:ジョン・アダムズ 演出:ピーター・セラーズ
出演:ジェイムズ・マッダレーナ、ロバート・ブルーベイカー、キャスリーン・キム、ジャニス・ケリー、ラッセル・ブローン、リチャード・ポール・フィンク
上映時間:3時間43分(休憩2回) MET上演日:2011年2月12日
1972年2月、北京郊外の飛行場にニクソン大統領が降り立った。毛沢東主席との会談が始まり、饒舌な主席の弁はニクソンを圧倒していく。愛国的な晩餐会ではお互いの国の平和に対して盛大な乾杯が行われ、翌日は“思想的”で“ハリウッド的”でもあるバレエを鑑賞する。毛沢東の妻による、欧米文化や“ブルジョワ的”なものを徹底的に排していく姿勢で作られたバレエは、またもニクソン夫妻にいいしれぬ感情を芽生えさせていく。そうした北京での日々を過ごし、彼らは果たしてその最後の夜に何を思ったのか?そして両国の和解への道は?
今や世界的神話―― 東西冷戦時代、ニクソン=アメリカ資本主義と、毛沢東=中国共産主義の歴史的邂逅を通じ、人間の真実を探求したJ.アダムズの代表的オペラだ。
指揮:パトリック・サマーズ 演出:スティーヴン・ワズワース
出演:プラシド・ドミンゴ、スーザン・グラハム、ポール・グローヴス
上映時間:2時間36分(休憩1回) MET上演日:2011年2月26日
月の女神ディアーヌの怒りを静めるため、イフィゲニア(仏語読みでイフィジェニー)は父のミケーネ王アガメムノンによって生贄に差し出されそうになるも、女神の憐みでスキタイ人の島タウリスに流されて巫女となった。彼女は今、自分の一族の血塗られた運命と、生き別れの愛する弟オレストのことを思っている。タウリスの王トアスは彼女に、島にたどり着いた外国人2人を生贄にするよう命令するが、その1人はオレストだった!長い年月が経ち、お互いが誰かわからない姉弟だが、オレストは、ミケーネではアガメムノン王を殺した王妃クリテムネストラをその息子が殺し、一族の生き残りは姉のエレットラだけであると語る。驚くイフィジェニーはどちらか1人の命を助けるから、ミケーネに手紙を届けてほしいと望むが、オレストと親友ピラードはお互いに「自分が残ってお前のために死ぬ!」と譲らない。果たしてイフィジェニーは彼を弟と気付いて救うことができるのか?
ワズワースの洞察力あふれる演出のもと、運命の姉弟をドミンゴとグラハムの2大スターが歌う話題の舞台は見逃せない。
指揮:パトリック・サマーズ 演出:メアリー・ジマーマン
出演:ナタリー・デセイ、ジョセフ・カレーヤ、ルードヴィック・テジエ
上映時間:3時間30分(休憩2回) MET上演日:2011年3月19日
17世紀スコットランドのランメルモール地方。領主エンリーコの妹ルチアは、兄がその領地を奪ったエドガルドと愛し合っている。しかしエンリーコは現在の経済的困窮から家を守るため、妹を高官アルトゥーロと政略結婚させようとしていた。永遠の愛を誓ったルチアとエドガルドだが、エンリーコは目的のため彼女の出した手紙をこっそり取り上げ、逆にエドガルドが心変わりをしたかの偽手紙を読ませるなど策を弄し、強引に結婚を進める。帰国し婚礼を見て怒り狂うエドガルド。その争いの中、繊細で夢見がちだったルチアの精神は次第に崩壊を始めていた。やがて迫り来るたとえようもない悲劇・・・。
19世紀ロマンティック・ベルカント・オペラの中でもとりわけ有名な〈狂乱の場〉を歌う、デセイの声の超絶技巧と役への没入は必聴・必見!
2008-09シーズンにA.ネトレプコ主演で絶賛された舞台が、更なる“真打ち”を主役に万全の再演だ。
指揮:マウリツィオ・ベニーニ 演出:バートレット・シャー
出演:フアン・ディエゴ・フローレス、ディアナ・ダムラウ、ジョイス・ディドナート、ステファン・デグー
上映時間:3時間00分(休憩1回) MET上演日:2011年4月9日
時は13世紀初め。フォルムティエ伯爵は部下を連れて十字軍遠征に出ており、妹のアデルら女性たちは皆、城で男たちの帰りを待っている。ところが遠征に出なかった貴族がいた。オリー伯爵である。好色なオリーはアデルに言い寄ろうと作戦を練っていた。行者に化けてアデルの相談に乗り、男子禁制の城に入り込もうとしていたのだ。しかし彼の小姓イゾリエもアデルに恋しており、彼女に会うためにオリーを手伝い知恵を貸すが、この計画はもう一歩のところで失敗に終わる。それでもオリーは諦めない。たくましくも別の手段で成功したかに見えたが、主人の企みを見抜いたイゾリエは・・・。そして十字軍の帰還も近づいていた・・・。
《セヴィリャの理髪師》、《チェネレントラ》など、オペラ・ブッファ(喜劇オペラ)のヒットを連発したロッシーニが晩年パリで作曲した、洗練と抑制のきいた大人のコミック・オペラ。J.D.フローレスとD.ダムラウという現在望みうる2人が歌う、オリーとアデルの歌合戦は必聴だ。昨シーズンの《ホフマン物語》等、METの大ヒット舞台を手がける奇才B.シャーの艶やかな新演出で贈る。
指揮:アンドリュー・デイヴィス 演出:ジョン・コックス
出演:ルネ・フレミング、サラ・コノリー、ジョセフ・カイザー、ラッセル・ブローン
上映時間:2時間36分(休憩なし) MET上演日:2011年4月23日
詩人のオリヴィエと音楽家フラマンは2人とも、若くして夫を亡くした伯爵夫人に恋をしている。彼女は自分たちのどちらを選ぶか?と言い争ううち、いつのまにか話は「言葉」と「音楽」はどちらが重要なのか?という議論になっていく。夫人の心が揺れ動く中、2人はそれぞれに愛を告白。返事を迫るうちに、女優や劇場支配人らも巻き込んで二重唱、四重唱、八重唱と多種多様なアンサンブルが展開、夫人は「では皆でオペラを作ってほしい」と提案する。そこで彼女の兄である伯爵は妙案を思いつくのだが・・・。結末はどこへ向かうのか?伯爵夫人の選択は・・・。
R.シュトラウスがその生涯の最後に作曲したオペラ。この議論はまさにシュトラウス自身の問題であり、作曲家の熟達に熟達を重ねた筆はここに類稀なる美しい音楽を生み出した。
指揮:マルコ・アルミリアート 演出:デイヴィッド・マクヴィカー
出演:マルセロ・アルヴァレス、ディミトリ・ホヴォロストフスキー、ソンドラ・ラドヴァノフスキー、ドローラ・ザジック
上映時間:3時間03分(休憩1回) MET上演日:2011年4月30日
ルーナ伯爵の城では、兵士たちがあるジプシーの老婆が火あぶりになった伝説について噂をしている。一方、山中ではジプシーの老婆アズチェーナがその火あぶりになった母を想い、恐ろしい復讐の歌を歌っていた・・・。
アズチェーナの子でトロヴァトーレ(吟遊詩人)の騎士、マンリーコは敵方ルーナ伯爵の女官レオノーラを愛し、ルーナもまた彼女を愛していた。幾度かの戦いでレオノーラはマンリーコが勝ち得る。復讐を誓うルーナだが、あやしい行動をするアズチェーナを捕らえ、彼女の処刑を脅しとしてマンリーコをおびき出す。捕まったマンリーコを命がけで救い出そうとするレオノーラ。やがておこる悲劇と驚愕の真相とは?
ヴェルディのオペラの中でもとりわけ情熱の「歌」にあふれ、また奇怪なストーリーに思わず引き込まれてしまう傑作だ。
指揮:ジェイムズ・レヴァイン 演出:ロベール・ルパージュ
出演:ヨナス・カウフマン、ブリン・ターフェル、デボラ・ヴォイト、ステファニー・ブライズ、エヴァ=マリア・ヴェストブルック
上映時間:5時間17分(休憩2回) MET上演日:2011年5月14日
《ラインの黄金》から時が経ち・・・地上には主神ヴォータンが人間に産ませた双子の兄妹ジークムントとジークリンデがいた。神であるヴォータンは、呪いのかけられた指環を自らの手ではなく、血を分けた「人間の英雄」に奪還させようと考えたのだ。2人の兄妹はお互いを知らずに育ったが、禁断の愛に陥り、ジークムントはジークリンデの夫フンディングと決闘になる。天界でのヴォータンの愛娘、ブリュンヒルデは父の心を慮り、ジークムントを勝たせようとするが、自分の思いと神の立場の間で葛藤するヴォータンはそれを阻む――。
【ニーベルングの指環】4部作中最も人気のある一作。起伏の大きなドラマ構成、夫婦や親子の情愛、憎悪、絶望、希望・・・人間的な感情すべてが声とオーケストラによってフルに表現され、深い感動をよぶ。特に終幕、ヴォータンとブリュンヒルデの別れの場面とその音楽は、数あるオペラの中でも屈指のものだ。