《コジ・ファン・トゥッテ》新演出 みどころレポート
演劇ジャーナリスト 伊達 なつめ
いま、METオペラの顔のひとりルネ・フレミングは、なんとブロードウェイ・ミュージカル『回転木馬』に出演中。入れ替わるように、ブロードウェイのトップ・スターで、渡辺謙を相手に『王様と私』に主演したケリー・オハラが、この作品で『メリー・ウィドウ』(14-15シーズン)に続く2度目のMETオペラ出演を果たしている。オペラとミュージカルが対等に併存し得る、ニューヨークならではの麗しい光景だ。演出のフェリム・マクダーモットも両方を往き来する才人で、ブロードウェイでは『アダムス・ファミリー』をヒットさせ、METでは『サティアグラハ』『エンチャンテッド・アイランド』(ともに11-12シーズン)で、パペットや映像を駆使したマジカルな空間を創り出し、強烈なインパクトを残している。ただ、作品自体の斬新さが際立っていた前2作のオペラに比べると、今回は超メジャーなモーツァルト作品。しかも、男性二人が変装して自分の婚約者を騙しその貞節を試すという、現実味に乏しく、明らかに女性蔑視で#MeToo案件的側面がある内容を、どのように現代の観客が納得できるものにするか。創り手の意識を問われるところがある。
ということでマクダーモットが用意したのは、1950年代のニューヨーク郊外、遊園地で有名なコニーアイランドを舞台にするというアイデア。
軍人の青年グリエルモ(アダム・プラヘトカ)とフェルランド(ベン・ブリス)をけしかける哲学者アルフォンソ(クリストファー・モルトマン)が、サーカスのリング・マスターのように、蛇遣い、剣飲み、火吹きウーマンらの芸人集団を従えて幕前に登場。
青年たちの世間知らずな婚約者フィオルディリージ(アマンダ・マジェスキー)とドラベッラ(セレーナ・マルフィ)姉妹の小間使いで、すれっからしのデスピーナ(オハラが好演)を一味に引き入れ、団員一同で大がかりな見世物としての恋愛喜劇をお見せします──といった体で序曲に乗せて口上を行なう。こうして最初から、観客の共感をすんなりと獲得してみせたのだった。
青年たちの悪巧みアプローチをサポートするべく、妖しくリアルな芸人さんたち(蛇も本物!)と、ファンタジーを具現化する遊園地の乗り物が、ジワジワと女性たちの良識の歯止めを外し、別世界へと誘ってゆく。なかでも、誘惑に必死に抗う生真面目なフィオルディリージが、(見たところ気球だけれど)コニーアイランド名物の観覧車に乗りながら歌う長大なアリアが圧巻だ。「ロンド(輪舞)」という曲名通り、大きく円を描く観覧車のゴンドラと、葛藤する彼女の心の動きが見事に一致。マジェスキーの細やかな表現力と相俟って、METらしい大掛かりな名シーンが誕生している。
モーツァルトとコニーアイランドの、絶妙な組み合わせ。『コジ・ファン・トゥッテ』はこうやって楽しめばいいのだなと素直に納得し、古きよき時代のニューヨーク観光に思いを馳せる、ワクワクし通しの一夜だった。
©Marty Sohl/Metoropolitan Opera
©JonathanTichler/Metoropolitan Opera