《愛の妙薬》見どころレポート

2018年2月22日 木曜日

室田 尚子(音楽評論家)

甘く美しい音楽、ロマンティックでちょっとスパイスの効いた恋愛ドラマ、そして歌手たちのそれぞれに個性的な美声と見事な歌のテクニック。そんな、シンプルでストレートなオペラの醍醐味に浸れるのが、ドニゼッティの《愛の妙薬》だ。

物語はスペイン・バスク地方ののどかな田舎の村が舞台。ネモリーノは、村で1人だけ『トリスタンとイゾルデ』を読むような頭のいい地主の娘アディーナを熱烈に愛しているが、彼女の方はそっけないフリ。そこにやってきたインチキ薬売りのドゥルカマーラから、ネモリーノは「愛の媚薬」と偽った安ワインを買う。一気に強気になったネモリーノに当てつけるように、アディーナはイケメン軍曹ベルコーレと婚約するが、結局最後はネモリーノの一途さに打たれて2人は結ばれる、というストーリー。

 

「ツンデレ美女」と「真面目青年」の恋とはまるでラブコメ漫画のようだが、ドニゼッティの手にかかるとアリアもデュエットも合唱もロマンティックで楽しくて、「オペラってなんて素敵!」と素直に思える作品になっている。今回ライブビューイングに登場するバートレット・シャーの演出は、そのツボを見事におさえた良プロダクションだ。

田園風景のセットや人々の衣裳の落ち着いた色合いはたいへんに品が良く、またパーティの場面での本物の料理(幕間で解説があるのでお楽しみに!)は実に美味しそう。

4人の登場人物も、過度なデフォルメは避けつつしっかりとキャラ立ちさせている。そう、シャーの演出はそのあたりの「リアル」と「ドラマ」のさじ加減が絶妙なのだ。

 演出に応える歌手陣もそろっている。

 ネモリーノは2013年にもこの役を歌ったM・ポレンザーニ。安ワインを愛の妙薬と信じてしまうネモリーノは一言でいえば「おバカさん」なのだが、ポレンザーニが歌うとえもいわれぬチャーミングさが出てくる。思わず「ガンバって!」と応援したくなってしまうのは、彼の持って生まれたキャラクターのなせる技だろう。

 アディーナを歌うP・イェンデはドミンゴ主催の「オペラリア・コンクール」で優勝した話題の新星。驚くほど安定感のある歌唱で、これからの時代を担うスターの要素は充分だ。

 

 ドゥルカマーラを歌うのは、これがライブビューイング初登場になるI・ダルカンジェロ。さすがドン・ジョヴァンニで一世を風靡しているだけあって、このインチキ・オヤジが何だか色っぽく見えてくる。特に第2幕でのアディーナとのデュエットは要注目だ。

 

 美しい声と楽しいストーリーでMETでも大人気のプロダクションで、オペラの醍醐味を堪能してほしい。

 

©Karen Almond/Metropolitan Opera

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