《アマゾンのフロレンシア》みどころレポート
ギタリスト 村治佳織
一言でいうと至極、美しかった。舞台美術も本当に美しい。アマゾン川をどう表現するかという問いを演出のM・ジマーマンが柔らかな心で解き、見事にクリアされている。
私がこのオペラのことを知ったのは、指揮者Y・ネゼ=セガンのインスタグラムであったと記憶している。スペイン語によるオペラが上演される。それもMETではほぼ100年ぶりに。それらが、強く印象に残った理由だ。そこから一年くらい時が流れて私が今、こうしてそのオペラ《アマゾンのフロレンシア》についての執筆をさせていただいていること自体が日常に起きた奇跡である。
奇跡というと何か大掛かりなものを想像されるかもしれないが、何気ない奇跡は日々の中でたくさん起きていると私は信じている。
物語の主人公フロレンシアとこのライブビューイングをご覧になる皆様が出逢うことも、立派な奇跡。
フロレンシア自身も、ある人物との再会の奇跡を胸に秘めて、アマゾンを旅する船”エル・ドラド号”に乗り込む。
冒頭の数小節でこの世界観に惹き込まれていくのだが、オーケストラの中で、マリンバやスティールパンの響きが時折聴こえ、さらに私達の想像力の翼は、アマゾンの奥地へと飛んで行く。D・カターンがG・マルケスの小説からインスパイアを受けなければこのオペラは生まれなかったと思うと、この二人の出逢いも美しい奇跡。
“二人”という複数の関係性が巧みに扱われており、観客は、その関係性のいずれかは自分事として身近に感じられるはずだ。
私が心震えた瞬間は2つあって、一つは若き女性が、目の前にいる人物こそが長年憧れてきた女性だと分かった時、そして物語の最後に、フロレンシアが運命の人に向けて、魂からのメッセージを送り届ける時。次に大スクリーンで観る時には違う箇所でも心震えるかもしれない。
最近、小・中学生の前でもギターを演奏する機会があり、クラシックギターを聴くのは人生で初めてという”将来の大人”の皆さんの心に、音楽を聴く楽しさをお伝えすることが出来た。”人様の心に大切なものが届いた”と思わせてもらえることは何よりも幸せなことだ。
このオペラは、新しいものを作り上げていく、今を生きる大人達による大人のための、上質な世界。限りある人生を、より良く、魂の導きに従って心にも素直に生きていくための道標のようなものが伝わってきた。
私が受けたバトンを次の観客の貴方へ。