《西部の娘》現地レポート
音楽ジャーナリスト 石戸谷結子
カウフマン、4年ぶりMETに復帰!
ハリウッド映画のようなオペラ版「西部劇」!二人の恋の行方は?
はたしてヨナス・カウフマンは、本当に歌ってくれるのか。NYに着いて、リハーサルに入ったことはニュースで知ったが、安心はできない顔を見るまでは。観劇当日(10月17日)はカウフマン登場の初日で、どきどきしながら開演を待った。ようやく1幕も後半になって、彼は本物の馬に乗ったカウボーイ姿で、「つむじ曲がりを直してくれるのは誰だ!」と輝かしい高音で叫びながら、颯爽と登場した!
今回の演出は1991年にプレミエ上演されたジャンカルロ・デル・モナコ(あの、マリオ・デル・モナコの息子)の傑作舞台。すでに30年近くにわたって親しまれてきたMETが誇る豪華セットだ。幕が開いた時には本当に驚いた。想像を遙かに超えたスケールの大きい舞台で、まるで映画の西部劇のように精巧に作り込まれている。西部の荒くれ男たちが暴れ回る乱闘シーンでは2階から人が降って来るなど、スペクタクルなアクション・ドラマのようだ。
じつはMETにとって《西部の娘》は特別に大切な作品だ。1907年、METはプッチーニ夫妻を招き、彼の作品を4作連続上演した。このときプッチーニがNYで観たベラスコ(『蝶々夫人』の原作者)の芝居『黄金の西部の娘」が後にオペラ《西部の娘》として結実することになる。1910年12月10日にメトで初演された時は、空前の成功を収めた。指揮はトスカニーニ、ディック・ジョンソン役は伝説的テノールのエンリコ・カルーソー、ミニー役はチェコの名ソプラノ、エミー・ディスティンという豪華顔ぶれ。なんとカーテンコールは50続いたという。
そんな大切な演目ゆえに、カウフマンの鳴り物入りの4年ぶりのMET復帰に当たって選ばれたのが、《西部の娘》だった。酒場の女主人で荒くれ男たちから母のように、恋人のように慕われているミニーを歌うのはエヴァ=マリア・ヴェストブルック。厚みのある豊かな声と色っぽさのある声を兼ね備えたソプラノだ。この役は高音も必要で、さらにドラマチックな表現力も要求される難役。
1幕では馬に乗って銃をバンバン撃ちながら、かっこ良くミニーが登場し、ディック・ジョンソンと出会ってたちまち恋に落ちる。この場面でカウフマンは甘い声でミニーを口説くのだ。2幕はこのオペラ最大の見どころ。その夜ミニーは自宅でいそいそと着飾って、恋人を待つ。ジョンソンが現れ、二人は初めてのキスを交わす。しかし男たちの情報から、彼こそがお尋ね者の盗賊のボス、ラメレスだと知ってしまう。そこからは西部劇の佳境、撃ち合いあり、インチキ賭博ありのスリリングな場面が続く。このシーンはカウフマンの独壇場。ドラマチックに自分の過去を語り、熱のこもったミニーとの愛の二重唱を繰り広げる。また、ヴェストブルックとジャック・ランス役のジェリコ・ルチッチとの白熱した賭博シーンも見どころ。二人は傷ついたジョンソンを引き渡すかどうか、賭博で勝負を決めるのだ。そしてこのアリアは《西部の娘》最大の聴きどころでもある。そして首つりにされる寸前、またもバンバンと銃を撃ちながら、ミニーは恋人を助けに現れる。さて、二人の恋の行方は?ラストシーンはどうなるのか。この続きは、大スクリーンでじっくりとご堪能ください。