METバックステージツアー付き観劇チケット当選者 現地レポート①
1.バックステージツアー
- 正直な話、METが有料で行っているバックステージツアーを他の参加者たちと一緒に歩き、そこに日本語通訳がつく程度と考えていました。ところが私たち4人だけの特別ツアーで、案内してくれたのはMETでマーケティングを担当する日本語堪能な現地スタッフの方。通常のバックステージツアーでは絶対に行かないようなところまで見せてもらえて、大感激。MET総裁のゲルブさんがライブビューイング(LV)で見せるような笑顔で偶然に廊下を歩いてきて、目が点に。という具合で、まるでオペラを観ているかのようにサプライズの連続で、これだけでも日本から費用と時間をかけて来た甲斐があったと思った次第です。
- ツアーで特に印象に残った点は、どのスタッフも誇りを持ち、この仕事が楽しくてたまらないという感じが満ち溢れていること。地下の稽古場では、本役歌手が出演できない場合に備えてカヴァー歌手が練習をしていましたが、結局は出番がない場合がほとんどなのに、いつ声がかかってもよいように、しっかりと準備をしている姿が心に残りました。また、大道具、小道具、衣装、カツラ、照明、プロンプターなど、表舞台には決して出てこない人たちの活躍と連携で舞台が成り立っていることは、少なからず感動ものです。ご招待いただいたバックステージツアーは、夢のような経験でした。
2.《ノルマ》新演出の感想
- 演出を新しくすると、特に今まで旧演出に親しんでこられた方から批判が起こりがちですが、今回の新演出はそのような心配は全く不要だと思います。METで活用できるものは何でも使うという感じの大掛かりな舞台であることに加え、無理のないわかりやすい演出であることにとても満足しました。
タイトル・ロールのラドヴァノフスキーさんは、2015-16年にドニゼッティの《ロベルト・デヴェリュー》のエリザベッタ役でLVに登場していますが、その時はチューダー朝メイクだったため、どのようなお顔なのかがよくわかりませんでした。今回は表情がよくわかり苦悩する巫女の感情が伝わる見事な演技でした。「Casta Diva(清らかな女神)」のアリアが有名ですが、透明感のあるやさしい歌い方でこれから始まる悲劇と見事にコントラストを描いていたように感じます。
ディドナートさんの若い巫女役も期待以上で、動揺する様子を歌声、表情の両面で豊かに表現されていて、さすがでした。
指揮のリッツィさんはイタリア人らしくグイグイと音楽を引っ張り、息をつく暇もない程です。これからLVで上演されますが、ベルカントの魅力が十分に楽しめる内容で、これを見逃すことは惜しいと思わせる出来栄えでした。今度は日本の映画館で、細かい表情、表現を楽しみたいと思います。
3.本公演をご覧になって改めて感じる、スクリーンで観る「METライブビューイング」ならではの魅力
過去にLVで観た演目を今回の滞在で実際の舞台で観た経験を踏まえ、困難であることを承知の上で敢えて言うならば、両方を観た方がよいということが今回のMET訪問ではっきりとわかりました。歌手一人ひとりの表情や演技がはっきりとわかるのは、やはりLVでしょう。
しかし、その時に同時にまわりで演技をしている出演者も観ながら、オーケストラとのハーモニーを楽しむことができるのは、実際の舞台だと思います。LVと現地の両方を観て、初めてその作品と演出の魅力を知ることができるように感じました。遠い昔に作られた作品を現代のコンピュータ化された舞台で観る魅力は捨てがたいですが、ニューヨークへ行くのも大変なので、これからもLVを続けていただけるとうれしいなあ、と思います。