エンタテインメントの世界

Vol.5 『人魚の眠る家』映画パンフレット

映画パンフレット・グッズの担当者にこだわりを聞くインタビュー企画。
第5回は『人魚の眠る家』(2018年11月16日公開)の映画パンフレット担当者・広瀬友介氏に話を聞きました。

※一部、設定・ストーリーに触れている箇所がありますので、ご注意ください。

Q. まずは制作の流れを教えてください。

 担当作品が決まったら、試写や原作を読んでどのような作品かを知り、ターゲットやマーケット調査をします。また、プロデューサーに作品の魅力や企画に至るまでの想いを伺うこともあります。
 作品によっては、パンフレット制作の段階で作品が完成していないものや、洋画だと海外と日本の公開日がほとんど一緒で、本編を観られないこともあります。そういった時は、台本をいただいて内容の把握をし、出演者やあらすじを見て作ります。映画を見ていなくても予告映像である程度の雰囲気はつかめるので、デザインから先に動き出すこともあります。

Q. 企画や構成はどうやって決めましたか。

 パンフレット制作の際に一番考えるのは「お客様が映画を観終わって、パンフレットを買うときに何を読みたいか」という部分です。
 今回の『人魚の眠る家』は、脳死状態に陥った子どもとその家族の話です。人の死とはどういうものなのか、普段なかなか考えない重たいテーマで、そこをどう記事にしていくかを考えました。ただ、それがメインではなく、登場人物それぞれが抱える葛藤や、看護していく家族のドラマがあって、最後は心温まる、感動できる展開になっています。難しい医療ものというよりは心を揺さぶるドラマとしての部分が大切だと思い、パンフレットの企画を立てました。

Q. パンフレット制作の際にこだわっているポイントを教えてください。

 電子書籍が増えてきた近年、映画パンフレットも電子版が登場してもおかしくないとは思うのですが、物で残るというのが大事だと思って作っています。お客様の中には、気に入った表紙のものを飾ってくださる方もいらっしゃって、「本棚に並んでいるのが気持ちいい」という方もいます。そういうコレクションとしての価値があることを考えると、紙で作ることに意味があるんじゃないかと思います。 『人魚の眠る家』のパンフレットはB5サイズで作っているのですが、一つの家で起こる物語なので、あまり判型を大きくしたくないと思いこの大きさにしました。例えば、このインタビューの第2回『空飛ぶタイヤ』のパンフレットは、迫力を出すためにA4で作っていたと思います。そういった紙の大きさや加工なども紙じゃないとできないことなので、いかに一冊に作品のすべてを凝縮するかを考えています。

Q. 『人魚の眠る家』パンフレット制作で、特にこだわったことを教えてください。

 『人魚の眠る家』は緊張感のある映画だと思いました。篠原涼子さん演じるお母さん(薫子)が、脳死の可能性が高い娘に奇跡が起こることを信じて看護を続けますが、はたから見ると不気味であり、眠り続ける娘を人形のように扱っているようにも見えてしまいます。その不気味さや緊張感をどうにかパンフレットに起こしたいと思いました。そのため、背景を白地にして、それを活かしたものにしようと決めました。ただ、白地だと地味になったり、体温を感じさせない無機質な感じに見えてしまうことがあるので、感情の起伏が出るように色味を加えていきました。紙は発色が良いものを選び、文字をなるべく黒ではない、色を使った文字にして、緊張感がありながら体温を感じさせるイメージを目指しています。

Q. 読者の方へメッセージをお願いします。

 パンフレットを鑑賞の記念としてお持ち帰りいただけたら嬉しいです。映画を観て、思い出以外で持って帰れる唯一の物ではないかと思っているからです。映画をより深く楽しむための一冊として、手に取っていただければと思います。

松竹株式会社 事業部出版商品室
広瀬 友介(ひろせゆうすけ)

 次回・Vol.6