エンタテインメントの世界

Vol.2『空飛ぶタイヤ』映画パンフレット

映画パンフレット・キャラクターグッズの担当者にこだわりを聞くインタビュー企画。
第2回は『空飛ぶタイヤ』(2018年6月15日公開)の映画パンフレット担当者・石川天翔氏に話を聞きました。

Q. まずは制作の流れを教えてください。

担当作品の試写を公開の3ヵ月~半年前に観て、大まかな構成を考えます。邦画の場合、部内の編集打ち合わせを経て、内容が決まったところで、プロデューサーに最終確認をとり、ページ数などのボリュームを決めて、実制作にうつります。スケジュールは作品によって様々ですが、まずはキャストやスタッフの方への取材や寄稿依頼を行います。あがってきたゲラを関係各所に確認を取り、入稿。誤った情報があるといけないので、文字校正にはできるだけ時間をかけます。特に俳優さんの名称、役名の固有名詞には、細心の注意を払います。発売後はSNS等でお客様の反応を見て、一喜一憂していますね(笑)

Q. 企画や構成はどうやって決めていますか。

パンフレットは、一般的な宣伝記事より、作品全体をより詳しく紹介することができます。なので、作品を観たときにキャストは勿論、脚本・撮影・音楽・衣裳等、自分の中で印象に残っているものをピックアップし、構成を練ります。また、制作者の作品に込めた想いなどは、観ただけだと分からない場合もあるので、プロデューサーに話を聞いたりします。

また、映画ライターの方の映画の知識は勿論素晴らしいのですが、例えば政治・歴史・音楽等の切り口もあります。なので、専門学者・アーティスト・記者のような映画の関係者以外の方にも、作品と絡めて取材をしたり、寄稿してもらうケースがあります。これはパンフレット制作業務の醍醐味のひとつです。趣味で読んでいた本や雑誌がこういった企画に繋がることもあるので、日々あらゆることにアンテナを張っていますね。

Q. パンフレット制作に当たり、『空飛ぶタイヤ』を観て最初どのように感じましたか。

この作品は、様々な圧力に負けずに闘おうと、男たちが立ち上がっていく話です。企業を通して社会全体を描いていて、“仕事ってなんだろう”“お金ってなんだろう”そして“正義ってなんだろう”っていう普遍的な問いかけを投げかけられます。「こんな骨太で熱い映画を作ってくれたキャスト・スタッフの皆さんに対して、パンフレットでも同じ熱量で返さないと失礼だ!」という想いが、最初にありましたね。

Q. 『空飛ぶタイヤ』パンフレットの制作エピソードを教えてください。

ポスターなどの宣材物は映画を観てもらうために制作するのですが、パンフレットは主に映画を観終わった方向けに制作をします。なので、我々作り手が作品からどういったことを感じ取り、それをどう一冊の本に落とし込むかが重要なポイントとなります。私は、この映画から「どんな過酷な状況でも闘い続ける」という印象を強く受けたので、その“苦しさ”や“闘い”をしっかりパンフレット内でも見せていきたいなと思いました。

また、パンフレットのターゲット設定には苦労しました。本編を観る前は、長瀬智也さん、ディーン・フジオカさん、高橋一生さん等のキャストの女性ファンの方が購入していただけるのかなと考えていました。しかし観た後に、「これは原作者の池井戸潤さんのファンである40-50代の男性の方にも受ける!」と思い、両方の層に向けて制作することにしました。若い女性の方に向けては、写真を多用し、「稟議」や「コンプライアンス」などの用語解説や、登場人物が多いので相関図を作成し、分からない点をフォローする。そして、池井戸さんのファンの男性の方には、『半沢直樹』『陸王』等、ご本人の作品特集や監督との対談を掲載しました。その取材の際に池井戸さんが「私の作品は展開がいつも同じだと言われるけど、それでいいんです。最後にスカッとする、皆が求めている物語を作っていきたいんだ」とおっしゃっていて、感動しました。その言葉を受けて、僕はつい何か変わったことをやりたくなるのですが、今回のパンフレットは王道を突き進もうと決めました。

Q. 特にこだわったポイントを教えてください。

表紙はこだわりまして、デザイナーと喧々諤々話し合って約10パターンを制作し試行錯誤した末に、主演の長瀬智也さんの横顔をモノクロで大きくあしらったデザインにしました。本編を初めて観たとき、主演の長瀬さんの目力がとても印象的でした。また、映画全体でキャストの皆さんが感情を抑えた演技をしていたので、パンフレットの表紙にもグッとこらえた深みのある表情を使いたかったんです。実はティザーポスターのようにメインキャスト3名のパターンも作ってみて、それはそれで格好良かったのですが、“圧”が3分の1になってしまうのが勿体なくて、今のデザインに落ち着きました。
もう一つ、パンフレットの中に「『空飛ぶタイヤ』に込められた松竹映画の系譜」というコラムがあります。『空飛ぶタイヤ』は、松竹が70年代後半~80年代初頭に作ってきた松本清張原作の野村芳太郎監督作を中心とする社会派エンタメ作品をイメージして制作されました。この話はプロデューサーから聞いたのですが、お客様にもそういった歴史やイズムを感じてもらえるように、このコラムを制作しました。

Q. 読者の方へメッセージをお願いします。

このパンフレットを制作していたとき、世の中は暗いニュースが多く、どこか鬱屈した気持ちを抱えながら作業をしていました。圧力をかけてもみ消そうとする人に、純粋に取り組む人の気持ちが踏みにじられる。問題が発生しても、隠蔽をしたり、改ざんをしたり。本作のテーマは、そんな昨今の社会情勢と通じるものがあるな……と感じていたんです。圧力に押しつぶされそうになる閉塞感のある日常の中でどうにか突破しようともがき、戦う男たちの生き様がこのフィルムには焼き付けてあるので、パンフレットでもその熱い想いを残せるように制作しました。男性でも女性でも、特に会社勤めをされている方は少なからずこの映画に出てくる圧力やしがらみを感じたことがあるはずです。そして、そういった壁に立ち向かう物語は、観た方の背中を押してくれるものだと感じています。このパンフレットには、そんな映画を作り上げた人たちの熱い気持ちを集めています。ぜひ本作をご覧になって、手に取っていただければ幸いです。

©2018「空飛ぶタイヤ」製作委員会

松竹株式会社 事業部出版商品室
石川 天翔(いしかわあまと)

 次回・Vol.3