映画・アニメの世界

vol.8 衣裳

役に命を吹き込む
衣裳 岡田敦之

どんな性格なのか、どんな時代を生きているのか、役に命を吹き込む衣裳。それを身にまとった時、俳優と役とが一つになる。今回は、松竹衣裳より岡田敦之さんをご紹介します。

Q.この仕事を志すようになったきっかけを教えてください。

岡田:高校3年生の時、テレビのトレンディドラマが全盛期でよく観ており、「衣裳」という仕事を知るようになりました。ドラマや映画のエンドロールで衣裳担当の名前が出るたびに、メモをして調べるようになり、一つひとつ連絡をしました。当時はまだ、スタイリストと衣裳の違いも分かっておらず、洋服に関わることをやりたいと漠然と思っていました。その後文化服装学院に進学し、フリーでスタイリストになるかどうか迷いましたが、まずは会社で学びたいと思いました。松竹衣裳は他の会社と違って、歌舞伎なども手掛けており、当時舞台の世界にも興味があったため入社しました。入社後は1年半ほど、明治座や歌舞伎座など劇場に入り担当していました。
初めての映像の現場は『伊能忠敬 子午線の夢』(2001年公開/小野田嘉幹監督)でした。自分で組み立て、衣裳デザインをするようになったのは、『青の炎』(2003年公開/蜷川幸雄監督)です。それから『おかえり、はやぶさ』(2012年公開/本木克英監督)やテレビドラマをはじめ、ネット配信系のドラマなど手掛けています。元々はテレビドラマをやりたくて入社をしましたが、今は作品として情熱を注ぐことができる、映画の方が好きですね。気づけば、この世界に入って20年目になります。

Q.衣裳のお仕事内容を教えてください。

岡田:原作がある場合は先に読み、その後台本を読んで監督が思う登場人物のイメージとすり合わせていきます。監督と俳優との間でイメージが違っている場合は、基本的に監督の意向に沿いますが、良いものを作れればそれがベストなので、両者の意見を聞いて別の提案をすることもあります。また、監督には撮影地がロケなのか、セットなのかもあらかじめ聞いておきます。ロケだと、自然な日差しの影響で色味が明るく見えますが、セットは素材によっては色が沈んでしまうこともあるからです。ただ現場に入ってみると、想像していたのと違うことはかなり多くあります。状況が突然変わることもあり、その時は走り回って、衣裳をかき集めてきます。現場はナマモノなので色々あります。だからこそ、事前の打ち合わせは綿密に行います。

 次に、生地の問屋や京都にある着物屋、日暮里の繊維街、プレスルームなどに連絡をし、レンタルをするものは借り、作るものは製作に入っていきます。映画だと、世界観を創りあげていきますが、テレビドラマはこれから流行する色や服のニーズにどう合わせていくかが重要です。日頃から雑誌を読んだり、メーカーのプレスに足を運ぶなど、常に最新の情報をキャッチしておかなければなりません。渋谷や原宿、中目黒、代官山といった街を歩き、通り過ぎる人の服や警察や消防、鑑識などの制服をついつい目で追って、「あっ、制服が変わったな」と思うこともあります。これはもう職業病ですね(笑)

―イメージを固めたあとは、具体的にどのように落とし込んでいくのでしょうか。

岡田:シーンごとに、監督、俳優、プロデューサー、カメラマン、録音、美術、照明、メイクのスタッフが立ち会い、衣裳合わせを行います。特に録音は、作品によっては衣裳に穴を開けて、中からマイクを通さなきゃいけない、ということもあり対応が必要になるので、この段階で決めておきます。これらを一つの作品につき、約500ポーズほど積み重ね、クランクインです。
 現代物だと、衣裳はチーフとアシスタントの二人体制で進めます。チーフは衣裳を準備し、アシスタントは現場に就きます。映画の現場では「エイジング」といって、わざと汚し使い古しているかのようにしたり、血糊をつけたり、ストーリーのシチュエーションに合わせて、360度どこからでも見せられるように、全身をコントロールします。雑誌のコーディネートとは違う、衣裳ならではのやりがいですね。撮影後は返却をしたり、衣裳展覧会などがある場合はそのまま会社で保管をします。テレビドラマは、90%以上がレンタルなので、返却作業は大切です。これを主役のみならず、エキストラの方の分も全て担当します。
―漫画が原作の場合、どのようにデザインされていくのでしょうか。

岡田:できるだけ、コスプレにならないように、原作に寄せます。ファンがついていますし、世界観を崩すのはどうかな…と思うので、崩すのであれば、全く違うものにしちゃいます。コスプレにならないように見せるためには、サイズ感や生地感など、細かいところまで作る必要があります。原作がないものは、自分の好きな作品からヒントを得て、「このキャラクターはこれと近いからこんな感じでいいですか?」と提案したりするなど、少しアレンジを加えることでミックスして、オリジナリティを出していきます。時代物だと、国会図書館にこもって、当時の印刷物や資料を探します。個人的には明治や大正は、服の色彩もカラフルで、とてもいい時代だと思います。
―小道具さんとの違いは何でしょうか。

岡田:帽子や鞄、時計、靴など「持ち道具」と呼ばれるものは小道具が、それ以外は衣裳が担当します。衣裳合わせの時に最終確認をするのですが、それぞれが思うイメージで持ってくるので、時に方向性が異なってしまうこともあります。その場合はなるべく衣裳に寄せてもらい、作品全体のバランスが整うようにしています。最近は主演俳優個人に付いて、トータルコーディネートを行う「スタイリスト」も増えています。「スタイリスト」は、衣裳とは異なり、服から持ち道具まで全てを一人がフルコーディネートをします。連続ドラマの場合は、先ほども話したように、最新の流行を追うことが大切なのでそれでもいいのですが、映画はあくまで物語の世界観を崩さないことが大切です。主演からエキストラに至るまで、一貫性がなければいけません。キャラクター1人が目立てばいいということではなく、物語としての衣裳をデザインしていきたいと思っています。

Q.最近は映像技術の発展により、細部に至るまで映るようになりました。そういった流れの中で、衣裳の選び方は変化をしているのでしょうか。

岡田:そうですね。使うカメラによって、画面を通して見える色味も変わってきます。フィルムで撮影されるものは、縫い目や細部に至るまでのすべてが見えてしまいます。粗が目立つけれど、良いものは本当に良く見えるのがフィルムの良さです。わざとワントーンあげて作ることもありますし、上から色を塗って染め直すこともあります。最近のカメラ、特に4Kは、本当に細かく映せるようになってしまったので、生地の質感も観ている人に伝わってしまいます。シルクはシルクに、ポリエステルはポリエステルに見える。安いものは安く写り、ごまかしがききません。映画全体の予算も減少している現実があり、衣裳にかけられる金額は少なくなっています。ですので、予算のかけ所を割り切りながら、映像に負けないようできる限り良いもの作れるようにしています。

Q.最後に、この仕事に求められる素養とは何でしょうか。

岡田:普段の生活から興味をもって、服に目がいくような人は向いていると思います。後は好奇心を持って、やってみたい!と思える気持ちがあるかどうか。衣裳は、役に命を吹き込む仕事です。良いものは準備するけれど、世界観を壊さない衣裳であることが大切です。キャラクターの性格や設定を自分で提案し、表現ができ、形として作品に残っていくことが、何よりものやりがい。辛いこともありますが、代え難いほどの幸せを感じる瞬間でもあります。

岡田敦之(おかだあつゆき)
2000年松竹衣裳入社。映画『青の炎』ではじめて衣裳担当をし、その後、映画「踊る大捜査線」シリーズ(本広克行監督)、映画『かぞくいろ』(2018年公開/吉田康弘監督)、NHK連続ドラマ「赤ひげ」シリーズも手掛けるなど、映画、ドラマ、 CM、PV、MV、舞台と多数の作品に携わっている。

<おまけ>教えて!衣裳さんお勧めの一作

『グランド・ブダベスト・ホテル』(2014年/ウェス・アンダーソン監督)

セットも含めてパンチある作品だと思います。時代物の作品ですが、今でもあの衣裳を着ていたら、とてもかっこいいと思います。

『ゲーム・オブ・スローンズ』(HBO制作テレビドラマシリーズ)

とにかく衣裳の作りこみがスゴイ!エイジングの加工技術がどうやってここまでやっているんだろう…と分からないぐらいです。「同じようにやってみたいな」とは思うのですが、きっと何十人もの応援が必要ですね。

2019年6月12日公開