作品の魅力引き出す映画音楽
音楽プロデューサー 高石真美
作品に彩りを与え、時に観ている者の心震わせる映画音楽。ふとメロディーを耳にするだけで、胸が切なくなったり、ときめきに満ち溢れたり…。ドラマを生み出す、その一音一音にかける仕事があります。今回は、松竹音楽出版より音楽プロデューサー高石真美さんをご紹介します。
Q.まず、音楽プロデューサーとはどのような仕事でしょうか。
二つ目には、予算管理です。決められた予算の中で先ほどの音楽家をキャスティングしたり、レコーディングスタジオを取ったり、楽曲制作ができるように進行します。
―制作現場には、どのような人たちが関わるのでしょうか。
高石:監督、プロデューサー、音楽家が中心となります。また「選曲」あるいは「音楽編集」とよばれる人たちも一緒に作業を行います。選曲とは、音楽家が作ってきた楽曲を最終調整をしながら実際にシーンにあてはめていく作業をすることです。
―音楽家はどのように選んでいくのでしょうか。
高石:監督やプロデューサーのイメージを聞き、また監督がこれまでにどの様な作品を作られてきたかも参考にしながら候補を考えます。あとはクラシックから最近の流行の音楽まで好き嫌いをせず、日頃から何でも聞くようにしています。監督から「こういう音楽を作れる人はいないか」と聞かれることもあるので、いつでも提案できるよう気になる音楽家がいればチェックをし、自分の中の引き出しを蓄えておく必要があります。
―プロデュースされる中で、大切なことは何ですか。
高石:常に監督の意向や作品に沿った形で作曲されているかということです。音楽家の作業を見守り、必要であれば監督の思いを伝える場を作り、躓くようであれば発想の転換ができるようにすることもあります。
Q.これまで数多くの作品を手掛けられてきた中で、心に残っている音楽を教えてください。
後は『日々ロック』(2014年、入江悠監督)という、バンドがテーマとなった作品です。その中の一場面に非常に苦労をしました。帰ろうとしていた観客がある音楽が聞こえてきたことをきっかけに、思わず戻ってくるという場面です。台本上ではたった一行の表記でしたが、そのような音楽を制作することは簡単なことではありません。また全ての音楽曲が物語において意味のある曲ばかりでしたので、いしわたり淳治さんという実際にバンドも手掛けられている音楽プロデューサーに曲のプロデュースをお願いしました。バンドの音楽=作品のカラー。まずは、原作に描かれるバンドが音楽を実際に鳴らすとどんな音がするのか、カラーを一から作っていくというところから始めたのを覚えています。
Q.近年、映画における音楽の在り方というものがより重要となり、大きく変化をしつつあると思います。音楽プロデューサーとしてそういった変化をどのように見られていますか?
一方で映画音楽がBGM化してしまうことに気を付けなければならないと、感じることもあります。作業がデジタル化したことで、映像の雰囲気に音楽を合わせることが容易になりました。場面の状況や登場人物の思いを汲み取るという劇伴本来の在り様がブレないように注意する必要性を感じています。
―他に映画音楽制作現場はどのように変化をしていますか。
高石:音楽制作の進め方が多様化しています。従来通り映像の編集が固まってから作り始める作曲家もいれば、音楽先行でデモを出してくる作曲家もいます。ですので、監督やアーティストによって柔軟に対応しなければなりません。また、今の映画の製作費は減る傾向にあり、全て生のオーケストラで収録することが難しい場合もあります。シンセサイザーでの打ち込みを取り入れたり、録音の仕方を工夫するようにはしています。
Q.高石さんの思う音楽プロデューサーとはどのような仕事でしょうか。
―求められる能力は、どのようなことでしょうか?
高石:客観的に思うことは、作品を読む力。映画が好きであること。人に対する好奇心と柔軟さです。プロデューサーという仕事は、音楽に限らずあらゆる世界を知り、その中から咀嚼して自分なりの答えを持っておかなければなりません。様々なジャンルの映画を観ることや作品の本質をつかむ力も必要だと思います。
Q.最後に、高石さんにとって映画音楽とはなんでしょうか。
例えば『空飛ぶタイヤ』(6月15日(金)公開、本木克英監督)で作曲をしてくださった安川午朗さんは、ドラマティックに心情や出来事を音楽であおり立てるのではなく、その作品の根底にあるテーマを常に感じさせる音の響きを作ってくださいました。群像劇で登場人物も多いですが、その響きがそれぞれの立場を明確に伝えてくれています。『白ゆき姫殺人事件』(2014年、中村義洋監督)の音楽制作をしてくださった際も、殺人事件を扱った映画であるにもかかわらず、最初に送られてきたメインテーマのデモはどちらかといえば陽気なラテン調の音楽でした。これにはとても驚きました。しかし音楽を聞いた後もう一度作品を見返したとき、その意味が分かりました。この作品の根底に流れるテーマは殺人の狂気さではなく、SNSによるコミュニケーションが中心となった現代社会における人が作り出す滑稽さなのだと…。恥ずかしながら、安川さんの音楽によって、初めて私はそのことに気づきました。
映画音楽には、作品の魅力を引き出す強い力があると私は思っています。だからこそ、これからも作品の本質をつかむ音楽づくりをしていきたいと思います。
高石真美(たかいし まみ)
松竹音楽出版 音楽プロデューサー
1992年入社。現在は松竹音楽出版勤務。映画製作部(現・映像企画部)、映画宣伝部を経て現職。『曇天に笑う』他数多くの映画音楽を手掛ける。2018年度全国公開の『空飛ぶタイヤ』、『旅猫リポート』、『虹色デイズ』、『かぞくいろ』でも音楽プロデューサーとして活躍中。