映画・アニメの世界

vol.12 スクリプター

物語を整理する監督の女房役
スクリプター 竹内美年子

監督、撮影監督、美術……。映画はたくさんの人の想いを乗せて旅に出る。旅に出た船が無事に到着できるよう、目指す方向を見失わないよう、灯台のごとく常に全てを見渡し、困った時には行く先をそっと照らすために、全てをかける仕事がある。今回は松竹京都撮影所よりスクリプター・竹内美年子(みねこ)さんをご紹介します。

「雲霧仁左衛門5」撮影現場より

Q.スクリプターを志すようになったきっかけを教えてください。

竹内:中学生の頃から映画が大好きで、映画に携わる仕事がしたいと思っていました。その中でも現場に出る仕事、特に演出部(助監督)志望でした。でも、当時は今のように女性が現場で働ける職種は非常に少なく、美術助手かスクリプターに限られていました。そこで、現在の松竹京都撮影所の前身である、京都映画株式会社に入社をし、ちょうど空きのあったスクリプターとして働くようになりました。入社をすると1年間、編集部で編集助手としての見習いから始まりました。スクリプターは、映画に携わる全てのセクションを理解しておかなければいけないため、編集技術を学ぶことで、フィルム映画そのもののつくりを勉強する必要があったのです。ようやく現場に出てスクリプターとして独り立ちをしたのは、テレビドラマシリーズ『必殺仕事人Ⅲ』(1982~83年)でした。その後は、テレビドラマシリーズ『必殺仕事人Ⅳ』(1983~84年)など数多くの時代劇テレビドラマや『必殺! 三味線屋勇次』(石原興監督、1999年公開)、『大奥』(林徹監督、2006年公開)、『キラー・ヴァージンロード』(岸谷五郎監督、09年公開)などに携わり、現在に至ります。

Q.スクリプターは一体どういったことをされるのでしょうか。

竹内:一言でいうと、スクリプトつまり台本です。映画の製作にまつわるあらゆることを記録していきます。撮影されたカット、現場の状況、また映像の尺の長さを出すのもスクリプターの仕事です。撮影は脚本のシーン1から順番に撮影するわけではありません。編集後の物語の流れを想像しながら、監督の傍で常に記録をしていくスクリプターは、女性が多いのも特徴です。
NHK/松竹「立花登青春手控えスペシャル」(2020)台本

例えば、「つながり」を見るために俳優さんの芝居を記録するのも仕事です。順序がバラバラな撮影だと、俳優さんは前後でどんな芝居をしていたのか、目線はどうか、次のカットでコップを持つ手は右だったか左だったか、忘れてしまうこともあります。主人公がさっきまで右手でタバコを吸っていたのに、次のシーンでいきなり左手だと、その時点で「つながり」はなくなってしまう。撮る順番はバラバラだとしても、映画として流れで見せるために「つながり」はとても重要です。俳優さんによってはカットがかかると、私の所に来て「ちゃんと芝居を見ていたか」と聞きに来られる方もいらっしゃいます。その時に、見ていませんでした、では通用しません。一歩引いて整理をし、芝居をしっかりと見た上で、もっとこうした方が流れに沿っているのではないか、と提案をすることもあります。

――作品が決まってから終了するまでの一連の流れを教えてください。

竹内:スクリプターは本当に仕事がたくさんあり、人によって細かいやり方はそれぞれです。ただ大きな流れでいうと、準備つまり撮影前の打ち合わせ、撮影、編集と続きアフレコ作業、完成です。これら全てに立ち会い、記録をしていきます。準備は、台本が決定稿として固まると映像の「尺」を出し、どれくらいの長さになるのか想定します。と同時に、衣装やCG、京都撮影所は時代劇が多いため、殺陣など、セクションごとに打ち合わせを行います。特に時代劇の台詞は「この時代ではこの言葉は使わない」など、細かいことを確認しあいます。分かっていてわざと使うのと、無知で使うのとでは違いますから。後は、俳優さんが決まったら、何度もご一緒したことがある人は、「台詞より芝居で見せたいと思われるだろうな」など大体分かるので、「ここの台詞は画で説明するようにしましょうか」など提案をしたりします。台本によって異なりますが、多岐にわたって話し合い、いよいよ撮影です。
「雲霧仁左衛門5」撮影現場より
クランクイン後も、引き続き打ち合わせをしつつ「編集シート」といって、1カットごとの台詞や動き、つながりなど、監督の意向も加味した細かく記録したものを日々編集マンに渡します。それを基に尺を取って、どこをカットしていくのか、編集の段階で決めていくためです。クランクアップすると編集に進みます。音入れやアフレコにも立ち会い、監督の意向を伝えつつ、言葉を足したり変更したりしながら、自分のストップウォッチを片手に尺を測っていきます。映像が完成した後も、スクリプターの仕事は続きます。完成台本の作成です。当初の決定稿からは台詞や内容、順番なども変更されています。これら全ての変更を反映し、最終的に完成した台本を作成するのです。これで、ようやく終わります。
フジテレビ/松竹 「剣客商売 婚礼の夜」(2020)台本
――監督と二人三脚で仕事をされるスクリプターですが、監督とのコミュニケーションや関係性はどのように築かれていらっしゃるのでしょうか。

竹内:初めてご一緒する監督とは、打ち合わせを繰り返していく中で、どういうタイプの方なのかな? と探っていきます。これはもう、長くやっていると大体分かりますね。稀に、なかなか分からない監督もいらっしゃいますが、日々会話をすることでつかんでいきます。 
「雲霧仁左衛門5」編集作業より

撮影に入り2~3日経つと、画の好みが分かるようになります。過去にはハリウッドスタイルで撮られる監督もいらっしゃいました。自然な俳優さんの姿を撮られる方で、絵コンテはあるのですが、俳優さんがNGを出してしまうと、そこからではなく最初から撮り直し。しかも、何方向からも撮影をします。基本的に自由なお芝居を求める一方で、つながりには厳しい。大御所俳優さんからも「ここどうなっていたっけ?」と芝居の確認をされることも多く、何日経っても自分の経験則だけでは分かりませんでした。そんな時には、「もう一回やってもいいですか?」と監督に聞くなどして、対応をしたのを覚えています。人間ですので100%合わせることはできません。でも、映画の撮影はチームです。ワンチームとなるために、少しでも監督のことを理解できるように努めています。

―これまで失敗してしまったことなどございましたら、教えてください。

そうですね……。昔、本番撮影後に俳優さんに「芝居どうなっていたっけ?」と聞かれて、「こうでした!」とお伝えをしたところ、実は間違っていたということがありました。本番前のテストの印象があまりに強すぎて、そっちの芝居を答えてしまったんですね。「あ、やってしまった」と思いました(笑)。

Q.昨今、CGなど映像技術も日々進化をしていますが、尺出しや現場での仕事をされるにあたり何か変化はあったのでしょうか。

映像技術は本当に進歩をしていきましたね。その度に知らないことは勉強をしていきました。難しい英語で単語化されたものも、「日本語に訳すと何ですか?」と聞いたり、英語やドイツ語など意外と日本語で訳すとアナログで難しかったりするものです。特にVFXの人は困っていました。CGの技術によって1週間かかっていたものが、3日でできるようになってしまったのですから。やっぱりフィルムからビデオへの転換は、一番大きかったことでした。
「雲霧仁左衛門5」編集作業より

Q.最後に、スクリプターに求められる素養を教えてください。

くじけないことですね。他のセクションはメインの担当がいて助手、サードがいてとチームで動いていますが、スクリプターは一匹狼。失敗をしたら叱責を一身に浴びます。「よくも言ってくれたな。次は絶対に言われまい」と、くよくよしないことが大切です。その場で泣いたりくじけてしまうと、これだから女はと思われるのが現実です。みんな何かしら失敗はするし、この世に失敗をしない人はいません。大切なのは、次は同じしくじりをしない、と思う心です。映画撮影には数多くのドラマがあります。スクリプターはそれらを監督のすぐ傍の一番の特等席で観ることができます。その楽しみがあるから、頑張ることができます。でも好きだからこそ、そのための日々の努力が必要なのです。
「雲霧仁左衛門5」撮影現場より

NHK/松竹「雲霧仁左衛門5」
2020年8月から NHK BSプレミアム 金曜夜8時から8時43分 にて放送予定(全8回)

NHK/松竹「雲霧仁左衛門3」
2020年4月11日(土)スタート NHK総合テレビにて毎週土曜 午後6時5分(全8回)


竹内美年子(たけうちみねこ)
京都府生まれ。松竹京都撮影所の前身、京都映画でスクリプターを始める。「必殺仕事人」、「鬼平犯科帳」、「大奥」などのシリーズを担当。

<おまけ>教えて!スクリプターさんお勧めの一作

『シャイニング』(スタンリー・キューブリック監督、1980年公開)

全てが好きです。キューブリックの作品は全て観ているのですが、これまでDVDで買ったのはこの作品だけ。ずっと最後までミステリアスなあの世界観が好きですね。後は、スクリプターとしてすごいと思うのは、黒澤明監督の映画です。特に『七人の侍』(黒澤明監督、1954年公開)はベストワンです!

2020年4月8日公開

取材:松竹株式会社 経営企画部広報室